パートやアルバイトの社会保険加入は、近年の制度改正によって対象がどんどん広がっています。「うちのパートさんは加入させるべき?」「106万円の壁はなくなるって本当?」―そんな疑問をお持ちの経営者・人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
特に中小企業では、次のような質問をよくいただきます。
- 週何時間働くと社会保険に入るのか?
- 106万円の壁とは何か? いつなくなるのか?
- うちは従業員50人以下だから関係ないのか?
社会保険の加入判断を誤ると、過去にさかのぼって保険料を徴収されるケースもあります。「知らなかった」では済まされないため、制度を正しく理解しておくことが重要です。
この記事では、中小企業向けにパート・アルバイトの社会保険加入条件を、2026年の最新ルールを含めて社労士がわかりやすく解説します。
社会保険とは?企業が加入する2つの保険
企業でいう「社会保険」とは、主に次の2つを指します。
- 健康保険:病気やけがをした際の医療費負担を軽減する制度
- 厚生年金保険:老後の年金のほか、障害年金・遺族年金などの保障
社会保険の特徴は、保険料を会社と従業員で折半して負担する点です。正社員は原則として加入対象ですが、パートやアルバイトも一定の条件を満たすと加入義務が発生します。
パート・アルバイトの社会保険加入条件は2つの基準で判断する
パート・アルバイトの社会保険加入は、次の2つの基準のどちらかに該当するかで判断します。
| 基準 | 対象となる企業 | 主な条件 |
|---|---|---|
| ① 4分の3基準 | 企業規模を問わずすべての企業 | 週の労働時間・月の労働日数が正社員のおおむね4分の3以上 |
| ② 短時間労働者の基準 | 厚生年金被保険者数が常時51人以上の企業 | 週20時間以上・月額8.8万円以上 など(下記参照) |
① 正社員の4分の3以上働く場合(4分の3基準)
これは企業規模に関係なく適用される基本ルールです。従業員が50人以下の会社でも対象になります。
- 週の所定労働時間
- 月の所定労働日数
これらが通常の労働者(正社員)のおおむね4分の3以上である場合、社会保険の加入対象になります。たとえば正社員が週40時間の会社なら、週30時間以上働くパート・アルバイトは加入が必要です。
② 週20時間以上の短時間労働者(いわゆる106万円の壁)
4分の3未満の労働時間でも、以下の条件をすべて満たす場合は加入が必要です。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上(年収換算で約106万円)※2026年10月に撤廃決定
- 2か月を超えて働く見込みがある
- 学生ではない(原則として昼間学生を除く)
- 厚生年金被保険者数が常時51人以上の企業で働いている
従業員50人以下の会社はパートの社会保険加入が不要?
よくある誤解ですが、答えは「不要とは限らない」です。
- ②の短時間労働者の基準(週20時間・月8.8万円)は、たしかに51人以上の企業が対象です
- しかし①の4分の3基準は企業規模を問わず適用されます
つまり従業員50人以下の会社でも、週30時間以上(正社員の4分の3以上)働くパートは加入対象です。「うちは小さい会社だから関係ない」と思い込んでいると、さかのぼり徴収のリスクがあります。
【2026年10月】106万円の壁(賃金要件)の撤廃が決定
短時間労働者の加入条件のうち、「月額8.8万円以上(年収換算106万円)」という賃金要件は、2025年6月に成立した年金制度改正法により、2026年10月に撤廃されることが決定しています。
撤廃後は、51人以上の企業では「週20時間以上」働けば賃金額にかかわらず社会保険に加入することになります。「106万円に抑える」という働き方の調整は、間もなく意味を持たなくなるということです。
なお、撤廃されるのは賃金要件だけです。週20時間以上・2か月超の雇用見込み・学生でない、といった他の条件は引き続き残ります。
さらに、企業規模要件(51人以上)も2027年10月から段階的に撤廃され、最終的にはすべての企業が適用対象となる予定です。「うちは50人以下だから当面関係ない」という会社も、数年以内に対応が必要になります。
【2026年4月施行】130万円の壁(扶養認定)の判定が変わりました
これまで「130万円の壁」の扶養判定は、直近の収入実績などで判断されることが多く、実務上の混乱を招いていました。
2026年4月からは「労働契約(雇用契約)」の内容を重視する判定へと明確化されました(厚生労働省が2025年10月に通達を発出し、2026年4月1日から適用)。具体的には、一時的な残業等で収入が130万円を超えたとしても、雇用契約書上の年収が130万円未満であれば、原則として扶養を継続できるようになっています。
これにより繁忙期の柔軟な働き方がしやすくなる一方、企業側には契約内容と実態の整合性をより厳格に管理することが求められます。雇用契約書の記載内容が、これまで以上に重要になるということです。
106万円・130万円・160万円の「年収の壁」の全体像は、こちらの記事で詳しく解説しています。

106万円の判定に含まれる賃金・含まれない賃金
短時間労働者の判定(月額8.8万円)に使う賃金は「所定内賃金」です。
| 判定に含まれる | 判定に含まれない |
|---|---|
| 基本給 | 通勤手当 |
| 諸手当(職務・資格・役職など) | 残業代 |
| 賞与・臨時手当 |
「残業代を入れると106万円を超えるが、加入対象になるのか?」というご質問をよくいただきますが、残業代は判定に含まれません。あくまで所定内賃金で判断します。
社会保険に加入させないとどうなる?さかのぼり徴収のリスク
加入条件を満たしているのに手続きをしていなかった場合、年金事務所の調査等で判明すると、最大2年さかのぼって保険料を徴収される可能性があります。
保険料は会社と従業員の折半ですが、さかのぼり分の従業員負担を本人から回収するのは現実的に困難なことが多く、結果として会社が大きな負担を抱えるケースが少なくありません。「加入させるかどうか」を曖昧にしたまま雇用を続けることが、最大のリスクです。
よくある質問(FAQ)
Q. パートは週何時間から社会保険に加入しますか?
A. 従業員51人以上の企業では週20時間以上が目安です(その他の要件も満たす場合)。50人以下の企業でも、正社員の4分の3以上(週30時間以上が目安)働く場合は加入が必要です。
Q. 106万円の壁はいつなくなりますか?
A. 年金制度改正法により、2026年10月に撤廃されることが決定しています。撤廃後は、51人以上の企業では週20時間以上働けば賃金額にかかわらず加入対象となります。さらに企業規模要件(51人以上)も2027年10月から段階的に撤廃される予定です。
Q. 学生アルバイトも社会保険に入りますか?
A. 昼間学生は原則として短時間労働者の加入対象から除かれます。ただし4分の3基準(週30時間以上など)を満たす場合は学生でも加入対象です。
Q. 130万円の壁は2026年に何が変わりましたか?
A. 2026年4月から、扶養の判定が雇用契約の内容を重視する方式に明確化されました。一時的な残業で130万円を超えても、契約上の年収が130万円未満なら原則扶養を継続できます。
社労士の視点:制度の「穴」を埋めるのは、経営者の「対話」
ここで、日々多くの顧問先様と向き合う中で感じる私見を述べさせていただきます。
これまでは「いかに扶養の範囲内で抑えるか」という、いわば「守りの働き方」を相談されることが大半でした。しかし、相次ぐ法改正と深刻な人手不足により、その境界線はもはや意味をなさなくなりつつあります。
2026年4月の判定基準の明確化、そして10月の賃金要件撤廃。これらは国が「働くなら全員で支え合う制度(社会保険)」への移行を強く推し進めている証左です。
経営者の皆様には、単に「加入条件に該当するか」をチェックするだけでなく、「社会保険に入ることで、従業員にどのような安心(将来の年金額アップや傷病手当金など)を提供できるか」というポジティブなメッセージを伝えていただきたいと考えています。制度を「コスト」として捉えるのではなく、優秀な人材を長く引き留めるための「福利厚生」として再定義する時期に来ているのです。
まとめ:パートの社会保険加入は「当たり前」の時代へ
パート・アルバイトの社会保険加入は、今後ますます「当たり前」のものになっていきます。
- 4分の3基準:企業規模を問わず適用(週30時間以上が目安)
- 短時間労働者基準:週20時間・51人以上規模(※賃金要件は2026年10月撤廃が決定、規模要件も2027年10月から段階的撤廃へ)
- 2026年4月から:労働契約を重視した扶養(130万円)判定に変更済み
制度を正しく理解し、適切な勤怠管理や賃金設計を行うことは、法的リスクを避けるだけでなく、従業員との信頼関係を築く第一歩です。
加入条件の判定に迷う場合や、2026年の改正に向けて雇用契約・シフトの見直しを検討したい場合は、ぜひ一度、労働法の専門家である社会保険労務士(社労士)までお気軽にご相談ください。適切な労務管理で、従業員が安心して働ける強い組織を作っていきましょう。
「うちのパートさんは加入させるべきか判断がつかない」「106万円の壁がなくなったら人件費はどうなるのか」「扶養内で働きたい従業員への説明に困っている」――。
そんな中小企業の経営者様へ。八重樫社会保険労務士事務所では、パート・アルバイトの加入判定から雇用契約書の整備、社会保険の加入手続き、2026年改正を見据えた賃金・シフト設計まで、ワンストップで対応しています。
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