賞与(ボーナス)は、従業員のモチベーション向上や業績還元のために多くの企業で支給されています。しかし賞与を支給する際には、毎月の給与と同様に社会保険料の控除が必要となるうえ、「賞与支払届」の提出も求められます。
特に中小企業では、賞与支給の頻度が少ないため、実務担当者が手続きを失念したり、保険料計算を誤ったりするケースも少なくありません。
本記事では、賞与にかかる社会保険料の計算方法と賞与支払届の実務について、わかりやすく解説します(2026年6月時点の制度内容に基づきます)。
賞与にも社会保険料がかかる
社会保険上の「賞与」とは
社会保険における賞与とは、賃金・給与などの名称を問わず、年3回以下支給されるものを指します。
例えば、以下のようなものが該当します。
- 夏季賞与
- 冬季賞与
- 決算賞与
- 業績連動賞与
一方で、年4回以上支給される場合は「賞与」ではなく「報酬」として扱われ、標準報酬月額の算定対象となります。年4回以上の賞与は算定基礎届(定時決定)の際に毎月の報酬へ算入する必要があり、この処理漏れは年金事務所の調査で指摘されやすいポイントです。
賞与に社会保険料がかかる理由
健康保険や厚生年金保険は、被保険者が受ける報酬に応じて保険料を負担する仕組みです。
そのため、毎月の給与だけでなく賞与も保険料算定の対象とされています。これは「総報酬制」と呼ばれる考え方で、年間の給与と賞与を合わせて負担を求めることで、給与と賞与の配分による不公平をなくす目的があります。
賞与にかかる社会保険料の計算方法
標準賞与額とは
賞与の社会保険料は「標準賞与額」を基に計算します。
標準賞与額とは、税引前の賞与総額から1,000円未満を切り捨てた金額です。
例えば、以下のようになります。
- 賞与額:503,800円
- 標準賞与額:503,000円
また、標準賞与額には以下の上限額が設けられています。
- 健康保険・介護保険:年度(4月1日から翌年3月31日まで)の累計額で573万円が上限
- 厚生年金保険:1か月あたり150万円が上限(同一月に2回以上支給した場合は合算して判定)
健康保険は「年度の累計」、厚生年金は「月ごと」と、上限の数え方が異なる点に注意が必要です。健康保険の累計額が573万円を超えた場合は、被保険者からの申し出に基づき「健康保険標準賞与額累計申出書」の提出が必要になることがあります。
健康保険料の計算方法
健康保険料は、次の計算式で求めます。
標準賞与額 × 健康保険料率
協会けんぽの場合、保険料率は都道府県ごとに異なります。料率は毎年度3月分(4月納付分)から見直されるため、事業所所在地の最新料率を必ず確認してください。なお、40歳以上65歳未満の被保険者は、これに加えて介護保険料(全国一律)も控除されます。
厚生年金保険料の計算方法
厚生年金保険料は、次の計算式で求めます。
標準賞与額 × 厚生年金保険料率
厚生年金保険料率は全国一律で、2017年9月以降18.3%で固定されています(2026年度も変更ありません)。
計算例で確認する
賞与額が500,000円の場合を例に見てみましょう。
- 賞与額:500,000円
- 標準賞与額:500,000円
仮に健康保険料率が10.00%、厚生年金保険料率が18.30%の場合、それぞれ以下のとおりです。
健康保険料
500,000円 × 10.00% = 50,000円
厚生年金保険料
500,000円 × 18.30% = 91,500円
このうち、従業員と会社が原則折半で負担します。
従業員負担額は、以下のとおりです。
- 健康保険料:25,000円
- 厚生年金保険料:45,750円
実際には、介護保険料や都道府県ごとの保険料率、さらに雇用保険料も考慮する必要があります。
賞与にかかる雇用保険料にも注意
賞与には雇用保険料もかかります。ただし、雇用保険料は標準賞与額(1,000円未満切り捨て後)ではなく、賞与の総支給額に労働者負担分の雇用保険料率を乗じて計算します。健康保険・厚生年金とは計算ベースが異なる点に注意しましょう。
賞与支払届とは
賞与支払届の役割
賞与支払届(正式名称:健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届)とは、事業主が賞与を支給した事実と支給額を日本年金機構へ届け出るための書類です。
この届出に基づいて、賞与にかかる社会保険料が決定されます。
提出対象となる賞与
社会保険の被保険者に賞与を支給した場合は、提出が必要です。
正社員だけでなく、被保険者となっている短時間労働者等に賞与を支給した場合も対象となります。
提出期限と提出先
賞与支払届は、賞与支給日から5日以内に提出します。
提出先は、管轄の年金事務所(事務センター)です。健康保険組合に加入している場合は、健康保険分を組合へ提出する必要があります。
期限を過ぎると、保険料納入告知書への反映が遅れるなど、事務処理の遅れや問い合わせにつながる可能性があります。なお、かつて必要だった「賞与支払届総括表」は2021年4月以降廃止されており、現在は提出不要です。
賞与支払届の実務手続き
届出に必要な情報
主な記載事項は、以下のとおりです。
- 被保険者氏名
- 基礎年金番号(またはマイナンバー)
- 賞与支給年月日
- 賞与額
- 標準賞与額
事前に対象者一覧を作成しておくと、スムーズに進められます。
電子申請と紙申請
近年は電子申請が普及しており、給与システムと連携することで入力作業の効率化が可能です。
中小企業でも電子申請(e-Gov等)を活用することで、事務負担の軽減につながります。
賞与を支給しなかった場合
賞与を支給する予定で届出をしていたにもかかわらず、実際には支給を行わなかった場合は、「賞与不支給報告書」の提出が必要となります。
賞与支払届でよくあるミス
提出漏れ
最も多いミスが提出漏れです。
賞与支給後は、給与計算と同時に届出スケジュールを管理することが重要です。
支給額の誤入力
税引前支給額を入力すべきところ、手取り額を記載してしまうケースがあります。
届出前には、必ずダブルチェックを行いましょう。
退職予定者への賞与支給時の注意
退職者に賞与を支給する場合、社会保険料を徴収するかどうかは「支給日時点で在籍しているか」ではなく、「資格喪失日が属する月の前月まで保険料が発生する」というルールで判断します。資格喪失日は退職日の翌日となるため、退職日が月途中か月末かで取扱いが変わります。
- 賞与支給日より前に退職した場合:社会保険料の徴収は不要(賞与支払届も不要)
- 月の途中で退職した場合(例:6月27日退職→資格喪失日6月28日):支給日時点で在籍していても、6月支給の賞与から社会保険料は徴収しない(ただし賞与支払届の提出は必要)
- 月の末日に退職した場合(例:6月30日退職→資格喪失日7月1日):6月分の保険料が発生するため、6月支給の賞与から社会保険料を徴収する
「支給日に在籍していれば徴収する」と誤解しやすいポイントですので、退職日(=資格喪失日)を必ず確認しましょう。なお、保険料がかからない場合であっても、被保険者期間中に支給した賞与については賞与支払届の提出が必要です。
中小企業が押さえておきたい実務ポイント
賞与支給前のシミュレーション
賞与を決定する際は、支給総額だけでなく会社負担の社会保険料も試算しましょう。
事前に試算しておくことで、予算管理がしやすくなります。
給与ソフトとの連携
給与ソフトの賞与機能を活用すると、保険料計算や賞与支払届データの作成を効率化できます。
社会保険料の会社負担額を把握する
賞与は従業員負担だけでなく、会社も同程度の保険料を負担します。
支給額だけで判断せず、社会保険料の会社負担分を含めた総人件費で管理することが重要です。
社労士の見解
賞与に関する社会保険実務では、「保険料計算」よりも「届出管理」のほうがトラブルの原因になるケースが多いと感じます。現在は給与ソフトで計算自体は自動化できますが、賞与支払届の提出漏れや支給日の入力ミスは、依然として発生しています。
特に中小企業では、賞与支給が年1〜2回であるため担当者が手続きに慣れておらず、結果として届出が遅れることがあります。また、決算賞与や臨時賞与などイレギュラーな支給時には、提出義務そのものを見落とすケースもあります。
賞与支給を決定した段階で、「支給日」「社会保険料計算」「賞与支払届の提出」の3つをセットで管理する仕組みを整備しておくことが重要です。実務の安定化という観点では、給与計算業務と届出業務をチェックリスト化することをおすすめします。
あわせて、2026年度は社会保険の適用拡大(賃金要件の撤廃など)や子ども・子育て支援金の新設といった改正も進んでおり、賞与だけでなく社会保険全体の負担構造が変化しています。自社への影響が分かりにくい場合は、早めに専門家へご相談ください。
まとめ
賞与は毎月の給与と同様に社会保険料の対象となり、健康保険料・厚生年金保険料などを控除する必要があります。
実務上は、以下の点が重要です。
- 標準賞与額を正しく算出する(1,000円未満切り捨て)
- 社会保険料を適切に計算する(上限・料率に注意)
- 賞与支払届を支給後5日以内に提出する
- 退職者の取扱い(資格喪失日)を確認する
- 提出漏れや入力ミスを防ぐ
特に中小企業では、賞与支給の頻度が少ないため手続きを失念しやすい傾向があります。賞与支給時には保険料計算だけでなく、賞与支払届の提出まで含めてスケジュール管理を行い、適切な社会保険実務を実践しましょう。
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