従業員が出産・育児を迎える際、企業として欠かせないのが「育児休業給付金(いわゆる育休手当)」のサポートです。
特に中小企業においては、「人事労務の専任担当者がおらず手続きに不安がある」「従業員から『いくらもらえるのか』と聞かれてもすぐに答えられない」とお悩みの経営者・担当者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、社会保険労務士の視点から、育児休業給付金の金額と計算方法、そして会社側で発生する手続きの流れに絞って、2026年時点の最新内容で解説します。
1. 育児休業給付金の基礎知識
1-1. 育児休業給付金(育休手当)とはどんな制度?
育児休業給付金とは、労働者が育児休業を取得する期間中、休業前の収入減少を補い、生活の安定を図るために雇用保険から支給される給付金です。
無給になりがちな休業期間中の生活を支える重要な制度であり、育休復帰後の雇用継続を目的としています。
なお、2025年4月の雇用保険法改正により、これらの給付は「育児休業等給付」という総称でまとめられ、現在は次の4種類で構成されています。本記事では①を中心に解説します。
- 育児休業給付金(原則1歳未満の子の育休)← 本記事のテーマ
- 出生時育児休業給付金(産後パパ育休)
- 出生後休業支援給付金(2025年4月創設)
- 育児時短就業給付金(2025年4月創設)
1-2. 受給できる主な支給要件
給付金を受け取るためには、原則として以下の要件を満たす必要があります。
- 雇用保険の被保険者であること
- 原則1歳未満の子を養育するために育児休業を取得すること(2回まで分割取得可)
- 休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある完全月が12か月以上あること(11日以上の月が足りない場合は、賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上の月で判定します)
- 1支給単位期間中の就業日数が10日以下(10日を超える場合は就業時間が80時間以下)であること
なお、育休開始日前2年間に、疾病・負傷等のやむを得ない理由で引き続き30日以上賃金の支払いを受けられなかった期間がある場合は、その期間を2年に加算できます(最長4年)。
雇用保険そのものの加入条件については雇用保険とは?加入条件・手続きの基本を社労士がわかりやすく解説で解説しています。

1-3. パート・有期雇用労働者の支給要件
契約社員やパートなどの有期雇用労働者の場合、上記に加えて「子が1歳6か月に達する日までに、労働契約の期間が満了することが明らかでないこと」が必要です(労働契約が更新される場合は更新後のもので判断します)。
保育所に入れない等の理由で1歳6か月を超えて育休を取得する場合は、「2歳に達する日まで」で判断します。
以前に比べて要件は緩和されていますが、確認漏れのないよう注意しましょう。
2. 育児休業給付金の支給金額と計算方法
2-1. 給付金の基本計算式(67%・50%ルール)
支給額は、休業期間の長さによって給付率が変わります。
支給額 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 給付率
- 育休開始〜180日目:給付率 67%
- 181日目以降(復帰まで):給付率 50%
なお、産後パパ育休で出生時育児休業給付金が支給された日数は、67%が適用される180日に通算されます。
2-2. 計算の元になる「休業開始時賃金日額」とは?
「休業開始時賃金日額」は、原則として育児休業に入る直前6か月間に支払われた賃金の総額(賞与など3か月を超える期間ごとに支払われる賃金を除く)を180で割った金額です。
ここで実務上の間違いが多いのが、産前産後休業を経て育休に入るケースです。この場合は、育休直前ではなく原則として産前産後休業開始前の直近6か月間で算定します。産休中は無給または低額であることが多いため、ここを取り違えると給付額が大きく変わってしまいます。
なお、基本給だけでなく、残業手当や通勤手当、役職手当なども賃金総額に含まれます。
2-3. 支給上限額・下限額(令和8年7月31日までの額)
休業開始時賃金日額には上限・下限があります。
- 賃金日額の上限額:16,110円 / 下限額:3,014円
支給日数30日の場合の額は次のとおりです。
| 給付率 | 支給上限額 | 支給下限額 |
|---|---|---|
| 67% | 323,811円 | 60,581円 |
| 50% | 241,650円 | 45,210円 |
つまり、額面月給が約48万円を超えても、給付金は月32万円台で頭打ちになります。高所得の従業員には、この点を事前に伝えておくと期待値のズレを防げます。
これらの限度額は毎月勤労統計の平均定期給与額の増減をもとに、毎年8月1日に改定されます。2026年8月にも改定が見込まれますので、シミュレーションを提示する際は必ず最新額をご確認ください。
2-4. 【月収別】いくらもらえる?支給額のシミュレーション
月々の額面給与(直近6か月平均)に応じた1か月(30日換算)あたりの概算額は以下の通りです。
| 休業前の月収 | 最初の6か月間(67%) | 7か月目以降(50%) |
|---|---|---|
| 20万円 | 約13.4万円 | 約10.0万円 |
| 30万円 | 約20.1万円 | 約15.0万円 |
| 40万円 | 約26.8万円 | 約20.0万円 |
| 60万円 | 323,811円(上限) | 241,650円(上限) |
2-5. 育休中に賃金が支払われた場合の減額ルール
育休中に会社から賃金が支払われた場合、給付金は次のように調整されます。
| 支払われた賃金の額 | 育児休業給付金の額 |
|---|---|
| 「賃金日額 × 支給日数」の13%以下(181日目以降は30%以下) | 減額なし(67%または50%を満額支給) |
| 13%超〜80%未満 | 「賃金日額 × 支給日数 × 80%」- 賃金額 |
| 80%以上 | 支給されません |
「休業中に少し手伝ってもらって手当を出した」というケースで、意図せず減額・不支給が発生することがあります。賃金を支払う場合は必ず事前にシミュレーションしてください。
2-6. 手取りベースでは「実質8割」になる理由
育児休業給付金には、手取り面で大きな優遇措置があります。
① 所得税・雇用保険料がかからない
育児休業等給付は非課税のため所得税は課されず、賃金が支払われない場合は雇用保険料の負担もありません。
ただし、住民税は前年の所得に対して課税されるため、育休中も納付義務が残ります。給与天引き(特別徴収)ができなくなるため、普通徴収への切替えや一括徴収など、会社側での事前の段取りが必要です。ここを説明し忘れると、育休中の従業員が突然の納付書に驚くことになります。
② 社会保険料が免除される
育休中は、本人負担分・会社負担分ともに健康保険・厚生年金保険料が免除されます。ただし申出(届出)が必要で、自動的には適用されません。また賞与保険料の免除には別途要件があります。
免除の詳しい要件と手続きは育児休業中の社会保険料免除とは?で解説しています。

これらを合わせると、手取り収入ベースでは休業前の実質8割程度(最初の6か月間)が確保される計算になります。
2-7. さらに「手取り10割」になるケース
2025年4月に創設された出生後休業支援給付金は、育児休業給付金に上乗せして支給される給付金です。
支給額 = 休業開始時賃金日額 × 休業日数(上限28日)× 13%
育休給付の67%と合わせて給付率80%となり、社会保険料免除と非課税を踏まえると手取り10割相当が実現します。支給上限額は休業28日の場合で58,640円です。
支給には「本人が対象期間内に通算14日以上の育休を取得」「配偶者も14日以上取得、または一定の要件に該当」という条件があります。
「男性だけの制度」「夫婦そろって育休を取らないともらえない」という誤解が非常に多い制度ですが、実際には母親も対象ですし、配偶者が産後休業中であれば配偶者の育休取得は不要です。
3. 育児休業給付金の手続き・申請の流れ
中小企業において実務を担当する場合、手続きのタイムスケジュールを把握しておくことが極めて重要です。
3-1. 育休開始前〜開始直後の手続き
- 休業1か月前まで:従業員から会社へ「育児休業申出書」を提出してもらう(産後パパ育休は原則2週間前まで)
- 休業開始時:会社側で社会保険料免除の申出を行う
- 賃金月額証明書の準備:直前6か月(産休を経る場合は産休前6か月)の賃金台帳を整理しておく
3-2. 【最重要】初回申請の期限は「4か月以内」
初回の受給資格確認・支給申請は、育児休業開始日から起算して4か月を経過する日の属する月の末日までが期限です。
例:育休開始日が7月10日 → 4か月を経過する日は11月9日 → 提出期限は11月30日
この期限を過ぎると受給できなくなるおそれがあります。中小企業で最も事故が起きやすいポイントですので、育休開始と同時にカレンダーに落とし込んでおきましょう。
なお母親が産後休業から続けて育休に入る場合、「育児休業開始日」は出生日から起算して58日目にあたる日です。起算日を出産日と取り違えないよう注意してください。
3-3. 2回目以降の支給申請
給付金の申請は、原則として2か月ごとにハローワークへ行います(本人が希望すれば1か月ごとも可能)。申請日はハローワークが交付する「育児休業給付次回支給申請日指定通知書」で指定されます。
【必要書類・確認資料】
- 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書(初回のみ)
- 育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金/出生後休業支援給付金支給申請書
- 賃金台帳、労働者名簿、出勤簿(タイムカード)
- 育児休業申出書、育児休業取扱通知書
- 母子健康手帳のコピー(出生届出済証明のページ・分娩予定日が記載されたページ)
給付金は支給決定後、約1週間で本人口座へ振り込まれます。申請から支給決定までの審査期間を含めると、実際には数週間〜1か月程度をみておくとよいでしょう。
賃金台帳や出勤簿は申請のたびに添付が必要です。法定三帳簿の整備状況が手続きのスピードを直接左右しますので、法定三帳簿(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿)の管理はできていますか?も併せてご確認ください。

なお、これらの申請はe-Govによる電子申請が可能です。資本金1億円超の特定法人は電子申請が義務化されています。
3-4. 育休中に就労してもらう場合の注意点
育休期間中に一時的・臨時的に勤務してもらう場合、1支給単位期間に10日(10日を超える場合は80時間)以下に抑える必要があります。これを超えると、その支給単位期間の給付金が全額不支給になります。
さらに見落としがちなのが、育児休業を終了した日の属する支給単位期間は、就業日数の要件に加えて「全日休業している日が1日以上あること」が必要という点です。復帰日の設定によっては最終月分が受け取れなくなるため、復帰スケジュールを組む際は必ず確認してください。
また、1か月間に11日以上就労した場合、その賃金額が次の子の育休給付金の算定に使われることがあり、次回の給付額が下がる可能性があります。
3-5. 延長申請は2025年4月から要件が厳格化されています
保育所に入所できない等の事情がある場合、子が1歳6か月、または2歳に達するまで支給期間を延長できます。
ただし2025年4月から要件が厳格化され、単に「入所保留通知書を出せばよい」という運用は通用しなくなりました。現在は次のすべてを満たす必要があります。
- あらかじめ市区町村に保育利用の申込みを行っていること(子が1歳に達する日までの申込みであること)
- 原則として、子が1歳に達する日の翌日以前の日を入所希望日としていること
- 合理的な理由なく、自宅から片道30分以上かかる保育所のみに申し込んでいないこと
- 入所申込書に「保留を希望する」等の記載がないこと
- 入所保留通知書の発行日が、子が1歳に達する日の翌日の2か月前(4月入所申込みは3か月前)以後であること
申込書の内容は市区町村に照会される場合があり、実際の申込内容と異なることが判明すると不正受給として返還命令等の対象になります。延長を予定している場合は、遅くとも子が10か月頃の時点で会社から声かけをしておくことをおすすめします。
4. 社会保険労務士の視点から
育児休業に関する制度は、この数年で大きく変わりました。2022年の産後パパ育休の創設、2025年4月の出生後休業支援給付金・育児時短就業給付金の新設、同年10月の柔軟な働き方の措置義務化と、短期間に改正が重なっています。
社会保険や給与計算の実務に携わってきた立場から申し上げると、育児休業関連の制度は、数ある労務手続きの中でも特に複雑な部類です。給付金だけで4種類、それぞれに要件と上限額があり、社会保険料の免除、住民税の徴収方法、育児・介護休業法上の措置義務が別々のルールで絡み合います。人事労務の専任担当者がいない中小企業で、これをすべて正確に把握するのは現実的に難しいと感じています。
実際、制度の全体像を正しく理解している方は多くありません。一方で、当事者となった従業員の中には、事前にご自身で入念に調べている方もいらっしゃいます。会社側の説明が曖昧だったり、調べた内容と食い違ったりすれば、それだけで不信感につながりかねません。
こうした状況を踏まえ、中小企業に取り組んでいただきたいことを3点挙げます。
1. 「休業中の無収入期間」を作らないスピード対応
給付金は申請から振込までにタイムラグが発生します。特に初回申請は育休開始から4か月以内という期限があり、会社側が必要書類を速やかにハローワークへ提出しなければ、従業員の手元にお金が届くのが遅れます。賃金台帳や出勤簿は毎回の申請で必要になりますので、日頃からの帳簿整備が結果的にスピードを左右します。
2. 休業前に金額のシミュレーションを提示する
「給付金はいくらになるか」「社会保険料免除により手取りはどうなるか」「住民税はどう払うか」を、休業前に数字で提示することをおすすめします。
特に住民税は、非課税である給付金と混同されやすく、育休中に納付書が届いて初めて気づくケースがあります。金額を事前に示しておけば、安心して育休に入っていただけますし、会社への信頼にもつながります。
3. 男性育休は「回すための工夫」を先に考える
男性の育児休業取得については、2025年4月から取得状況の公表義務の対象が拡大されるなど、法制度上も後押しが強まっています。「人が抜けると回らない」という声は依然として聞かれますが、多くの企業が業務の割り振りや引き継ぎを工夫しながら対応しているのが実情です。
そして、取得が一度でも実現すると、職場の空気が変わることがあります。誰かが休むときに周囲がカバーし、次は自分が支えてもらう。そうした「お互い様」の意識が芽生えるケースです。育児に限らず、介護や本人の傷病など、働く人が長期に休まざるを得ない場面は誰にでも起こり得ます。育休対応は、その意味で組織全体の備えでもあります。
特定の従業員が抜けることをピンチと捉えるのではなく、業務の標準化・マニュアル化を進める機会と位置づけ直すことが、結果として人手不足に強い組織づくりにつながります。
なお、育休の取得支援・職場復帰支援に取り組んだ中小企業には両立支援等助成金が用意されています。計画の事前策定や申請期限があり後追いでは間に合いませんので、助成金とは?中小企業が知るべき基礎知識と活用方法を社労士が解説も併せてご覧ください。

5. まとめ
育児休業給付金は、休業中の生活を支え、大切な労働力である従業員の復帰を促すための重要な制度です。2026年時点のポイントを整理します。
- 給付率は最初の180日が67%、以降は50%。ただし上限額(67%で月323,811円)あり
- 算定は産休前6か月(産休を経る場合)。育休直前ではない
- 住民税は非課税ではないため、徴収方法の事前調整が必要
- 初回申請は育休開始から4か月以内が期限。母親の起算日は出生日から58日目
- 育休終了月は「全日休業の日が1日以上」必要。復帰日の設定に注意
- 出生後休業支援給付金により、要件を満たせば手取り10割相当
給付金の申請手続きや育休中の社内体制整備、就業規則の改定についてご不明な点がある場合は、ぜひお近くの社会保険労務士へお気軽にご相談ください。会社と従業員の双方が安心できる育休環境づくりを全力でサポートいたします。
【本記事の内容は2026年7月時点の法令に基づいています。支給限度額は毎年8月1日に改定されますので、実際の手続きの際は厚生労働省・ハローワークの最新情報をご確認ください。】
