職場におけるハラスメント防止対策は、もはや「努力目標」ではありません。法改正により、企業規模を問わずすべての事業主に義務付けられており、2026年10月にはカスタマーハラスメント対策も新たに義務化されます。 ハラスメントを放置することは、貴重な人材の流出や損害賠償リスクを招くだけでなく、企業の社会的信用を失う経営上の重大なリスクです。今回は、中小企業が取り組むべき実務手順と、形骸化させないためのポイントを解説します。
ハラスメント防止対策の定義と主な種類
ハラスメント防止対策とは、職場での嫌がらせ行為を未然に防ぎ、発生時に迅速・適切な対応を行うための企業の取り組みです。現在、法律で対策が義務付けられている主なハラスメントは以下の4種類です。
・パワーハラスメント(パワハラ):優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動です(根拠法:労働施策総合推進法)。
・セクシュアルハラスメント(セクハラ):性的言動により就業環境が害されることです(根拠法:男女雇用機会均等法)。
・マタニティハラスメント(マタハラ):は、妊娠・出産・育児休業等を理由とする不利益な取り扱いです(根拠法:育児介護休業法・男女雇用機会均等法)。
カスタマーハラスメント(カスハラ):顧客・取引先・施設利用者等が行う、社会通念上許容される範囲を超えた言動により労働者の就業環境が害されることです。
2025年6月4日に労働施策総合推進法の改正が成立し、2026年10月1日から事業主への対策が法的義務となります。これまで「望ましい取り組み」とされてきたカスハラ対策が、いよいよ法的義務へと格上げされた点は重要です。
なぜハラスメント防止対策が重要なのか
ハラスメントを放置すると、企業にとって大きなリスクとなります。被害者からの損害賠償請求や労働審判、従業員の離職、職場の士気低下、さらには企業イメージの悪化など、経営に直結する問題へと発展します。
特に中小企業では、人間関係が密接である一方、制度整備が遅れているケースが多く、「昔からの慣習」がハラスメントと認識されていないこともあります。この認識ギャップがトラブルの温床となる点には注意が必要です。
企業に義務付けられている「講ずべき措置」
法律では、事業主に対して以下の措置を講じることが義務付けられています。
1. 事業主の方針等の明確化および周知・啓発
「我が社はハラスメントを許さない」という姿勢を明確にします。就業規則への明記、社内規程の整備を行い、全従業員に周知します。経営者自らがトップメッセージとして発信することが最も効果的です。
2. 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
相談窓口をあらかじめ設置します。担当者が適切に対応できるよう、マニュアルの作成や研修が必要です。また、社内窓口では相談しにくいケースに備え、外部の専門機関(社労士事務所や外部相談サービス)を活用することも有効です。
3. 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
事案が発生した際は、速やかに事実関係を確認し、被害者への配慮と加害者への厳正な対処(規程に基づく懲戒処分等)を行います。同時に、再発防止策を講じるまでが義務の範囲です。
4. 併せて講ずべき措置(プライバシー保護等)
相談者や行為者のプライバシーを保護すること、および「相談したことを理由とする解雇や不利益な取り扱い」を禁止し、それを従業員に周知することが必須です。
【2026年10月義務化】カスハラ対策で追加すべき実務
カスタマーハラスメントについては、2026年10月1日の施行に向けて、上記の措置に加えて以下の取り組みが求められます。カスハラの判断基準(社会通念上許容される範囲を超えた言動かどうか)を社内で明確化し、現場の従業員が迷わず対応できるよう、業種・業態に応じた対応マニュアルを整備しておくことが重要です。施行まで半年を切っていますので、早急な準備着手をお勧めします。
実務でよくある失敗例
中小企業でよく見られるのが、「制度はあるが機能していない」ケースです。形式的に規程を作成しても、従業員が内容を理解していなければ意味がありません。
また、相談窓口があっても「相談したら不利益を受けるのではないか」という不安があると、実際には利用されません。信頼性の確保が不可欠です。
さらに、経営者自身がハラスメントに対する認識を持っていない場合、対策は形骸化します。トップの意識改革が最も重要な要素といえます。
ハラスメント対策を定着させるポイント
ハラスメント防止対策を定着させるためには、トップの継続的な関与が必要です。一度制度を作るだけでなく、定期的な見直しや改善を行うことで、実効性を高めることができます。
また、社内だけで対応が難しい場合には、社会保険労務士などの外部専門家を活用することも有効です。第三者の視点を取り入れることで、公平性と信頼性が向上します。
社労士の見解
ハラスメント防止対策は、単なるコンプライアンス対応ではなく、「職場環境の質」を左右する経営課題です。特に中小企業においては、人材の定着や採用力にも直結します。
実務上のポイントは、「制度を作ること」ではなく「運用すること」にあります。義務化となったからとりあえず制度だけ作った、では職場環境の改善は図れません。相談しやすい環境、適切に対応される安心感、そして再発を防ぐ仕組み。この3点が揃って初めて、ハラスメント対策は機能します。
また、2026年10月のカスハラ義務化を見据えると、パワハラ・セクハラ・マタハラに加えてカスハラまで含めた一体的な対策体制の整備が、今まさに求められています。経営者自身の言動が職場文化に大きく影響するため、トップの意識改革が最優先事項といえるでしょう。
まとめ
ハラスメント防止対策は、企業が職場環境を守るために不可欠な取り組みです。中小企業においても、方針の明確化、相談体制の整備、教育の実施、そして適切な対応が求められます。特に、2026年10月からはカスタマーハラスメント対策も法的義務となるため、早めの準備が不可欠です。
形式的な対応ではなく、実効性のある運用を行うことが重要です。ハラスメントのない職場づくりは、従業員の安心と企業の成長の両方につながります。今一度、自社の体制を見直し、継続的な改善に取り組むことが求められています。
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