企業には、労働市場の公正性や多様性を確保する観点から、一定の雇用状況を国に報告する義務があります。その中でも「高年齢者雇用状況報告」と「障害者雇用状況報告」は、中小企業にとって重要な実務対応のひとつです。この2つをまとめて「ロクイチ報告」と呼ぶこともあります。
特に2026年は、障害者雇用率の段階的な引き上げの大きな節目に当たります。加えて、2025年4月には高年齢者雇用安定法の経過措置終了や障害者雇用の除外率引き下げという重要な改正も施行されました。最新の法改正情報を踏まえ、実務上の注意点を詳しく解説します。
2つの報告の目的と法的根拠
まず、それぞれの報告の意義を確認しましょう。
高年齢者雇用状況報告(高年齢者雇用安定法)
「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)に基づき、企業が高齢者の雇用確保措置(定年制の廃止・定年の引き上げ・継続雇用制度の導入)をどのように実施しているかを報告するものです。70歳までの就業機会確保が努力義務化されて以降、その対応状況も重要なチェック項目となっています。
障害者雇用状況報告(障害者雇用促進法)
「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)に基づき、一定規模以上の企業に義務付けられているものです。企業は「法定雇用率」に基づき、一定割合以上の障害者を雇用する義務があり、その達成状況を毎年報告します。
高年齢者は「就業機会の確保」、障害者は「雇用機会の保障と社会参加」が主眼であり、企業の社会的責任(CSR)としての側面も強まっています。
提出義務と対象企業の範囲
ここが実務上、最も注意が必要なポイントです。
高年齢者雇用状況報告の対象
原則として常時雇用する労働者が31人以上の企業が提出対象とされています。なお、常時雇用労働者とは、週所定労働時間が20時間以上で、1年を超えて雇用される(または雇用される見込みのある)労働者を指します。高年齢者がいない場合でも報告が必要です。
障害者雇用状況報告の対象(2026年の変更点)
障害者雇用については、法定雇用率の引き上げに伴い、対象企業の範囲が段階的に拡大しています。
・2026年6月1日時点の報告:常用労働者40.0人以上(法定雇用率2.5%)
・2026年7月1日以降:常用労働者37.5人以上(法定雇用率2.7%)に拡大
2026年6月の報告自体は「40人以上」の基準で行いますが、同年7月からは基準が「37.5人以上」へと変わります。現在、従業員数が30名台後半の企業は、2026年7月から新たに雇用義務の対象となるため、早急な準備が必要です。
2025年4月施行の重要改正点
2026年の報告に直接影響する、2025年4月施行の改正事項も押さえておきましょう。
継続雇用制度の経過措置終了(高年齢者雇用安定法)
以前は労使協定により継続雇用制度の対象者を限定できる経過措置がありましたが、2025年3月31日をもって終了しました。2025年4月1日以降は、65歳までの雇用確保措置として、①定年制の廃止、②65歳までの定年引き上げ、③希望者全員を対象とした65歳までの継続雇用制度の導入、のいずれかを実施する必要があります。この変更により、2026年のロクイチ報告では対応状況の確認が一層重要になります。
除外率の引き下げ(障害者雇用促進法)
障害者が就業することが一般的に困難とされる特定業種に適用される「除外率制度」について、2025年4月1日から各業種の除外率が一律10ポイント引き下げられました。これまで除外率が10%以下だった業種は、除外率制度の対象外となっています。建設業・道路貨物運送業・医療業などの企業は、実質的な雇用義務数が増加している可能性があるため、再計算が必要です。
提出時期と方法
これらの報告は、毎年6月1日時点の雇用状況を基準とし、6月1日から7月15日までの期間に提出します。
提出先は管轄のハローワークですが、「e-Gov」や「gBizID」を利用した電子申請が推奨されています。特に障害者雇用状況報告は、未達成の場合の「障害者雇用納付金」の申告とも連動するため、正確かつ迅速な処理が求められます。
なお、高年齢者雇用状況報告について現時点では罰則規定はありませんが、法律上の義務である以上、必ず期限内に提出する必要があります。一方、障害者雇用状況報告は虚偽の報告や未報告に対して30万円以下の罰金が定められています。
実務で間違いやすい「労働者数のカウント」
実務上、最も多いミスは「労働者の数え方」です。
常用労働者の定義
週所定労働時間が30時間以上の労働者は「1人」とカウントしますが、20時間以上30時間未満の短時間労働者は「0.5人」としてカウントします。
精神障害者の算定特例
週所定労働時間が20時間以上30時間未満の精神障害者については、当分の間「1人(1.0カウント)」として算定できる暫定措置が継続されています。これは精神障害者の職場定着促進を目的とした特例です。
特定短時間労働者の特例(2024年4月より)
2024年4月から、週10時間以上20時間未満で働く精神障害者・重度身体障害者・重度知的障害者についても、「0.5人」としてカウントできるようになりました。これにより、長時間勤務が困難なこれらの方が短時間勤務でも雇用率の算定対象として評価されるようになっています。
単純な「頭数」ではなく、週の契約労働時間と障害の種別・程度に応じた「換算後の数値」で判断する必要があるため、パート・アルバイトが多い企業は特に注意が必要です。
中小企業が対応すべき実務ポイント
中小企業において、専任の人事担当者がいないケースも少なくありません。しかし、これらの報告を単なる「行政手続き」と考えてしまうのはもったいないことです。
・人材不足への対策:労働力人口が減少する中で、意欲ある高齢者や障害者の力を活かすことは、今や不可欠な経営戦略です。
・助成金の活用:雇用状況を適切に管理・報告することで、特定求職者雇用開発助成金などの各種助成金を受けられる可能性が広がります。
・企業ブランドの向上:法定雇用率を達成していることは、公共事業の入札やSDGsに配慮した企業としての対外的評価にも直結します。
社労士の見解
これらの報告は「義務だから対応する」という消極的な姿勢ではなく、「自社の雇用状況を可視化する機会」として捉えるべきです。特に中小企業においては、人材確保が大きな課題となる中で、高年齢者や障害者の活用は重要な経営戦略となり得ます。
また、2025年の継続雇用制度の経過措置終了・除外率引き下げ、2026年7月の法定雇用率2.7%への引き上げと、この分野は短期間に大きな制度変更が続いています。最新情報を継続的にキャッチアップすることが不可欠です。社労士など専門家の関与により、リスク回避と効率化の両立が期待できます。
まとめ
高年齢者雇用状況報告と障害者雇用状況報告は、いずれも企業にとって重要な法定義務です。対象企業の範囲や報告内容はそれぞれ異なり、正確な理解と対応が求められます。
2026年は特に、障害者雇用率2.7%への引き上げ(7月)という大きな節目を控えており、従業員30名台後半の企業も新たに義務対象となります。また、2025年4月に施行された継続雇用制度の経過措置終了・除外率引き下げの影響も、今年の報告に反映されます。
単なる義務対応にとどまらず、自社の雇用戦略の一環として活用することで、持続可能な経営につなげていくことが求められます。
不明な点や計算の確認、また具体的なご相談については、ぜひ専門家である社会保険労務士をご活用ください。
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