一時の感情や、日頃の勤務態度の悪さから「もう辞めてもらいたい」と考えたことはありませんか? しかし、日本において「解雇」は、経営者が考えている以上に法的なハードルが高い行為です。
解雇とは、企業が労働者との雇用契約を一方的に終了させることを指します。従業員の意思による「退職」とは根本的に異なり、会社側の判断で行われるため、労働法によって厳しい制約が課されています。特に中小企業では、感覚的な判断で解雇を強行した結果、後に「不当解雇」として訴えられ、多額の賠償(バックペイ)を命じられるトラブルが後を絶ちません。
千葉市美浜区で社労士事務所を運営している八重樫です。今回は「不当解雇を防ぐための基本と注意点」について解説します。
■解雇の種類
解雇には主に以下の3種類があります。
・普通解雇とは
能力不足や勤務態度不良など、従業員側の事情を理由とする解雇です。ただし、単に「能力が低い」というだけでは足りず、改善の機会を与えているかが重要になります。
・整理解雇とは
会社の経営悪化などを理由とした人員削減です。中小企業では特に慎重な判断が求められ、「整理解雇の4要件(必要性・努力義務・合理的選定・手続き)」が重要になります。
・懲戒解雇とは
重大な規律違反(横領、重大な服務違反など)を理由とする最も重い処分です。就業規則に明確な根拠が必要であり、手続きも厳格に行う必要があります。
■解雇が有効となる条件
日本では「解雇権濫用法理」が確立されており、次の2点が満たされない場合、解雇は無効となります。
・客観的に合理的な理由があること
・社会通念上相当であること
例え、軽微なミスを理由に突然解雇するようなケースは、これらの要件を満たさず無効とされる可能性が高いです。
■解雇予告と解雇予告手当(労働基準法第20条)
解雇の理由が有効であっても、手続きを誤れば違法となります。労働基準法第20条により、解雇には原則として少なくとも30日前の予告が必要です。30日前に予告しない場合は、不足日数分の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。たとえば解雇日の10日前に通知した場合、20日分の平均賃金の支払いが必要です。
また、労働者から請求があった場合は「解雇理由証明書」を遅滞なく交付する義務があります(労働基準法第22条)。懲戒解雇で労働者に重大な帰責事由がある場合は、労働基準監督署長の認定を受けることで、予告・予告手当が不要になるケースがあります。
■法律で禁じられている解雇(解雇制限)
解雇の理由の有無にかかわらず、以下の状況での解雇は法律で禁止されています。
・業務上の負傷・疾病による療養期間中およびその後30日間(労基法第19条)
・産前産後休業期間中およびその後30日間(労基法第19条)
・性別・妊娠・出産・育児休業・介護休業の取得を理由とする解雇(男女雇用機会均等法、育児・介護休業法)
・労働基準監督署への申告を理由とする解雇(労基法第104条)
■中小企業が注意すべき解雇のポイント
・就業規則の整備
解雇の根拠は就業規則に記載されている必要があります。規定が曖昧な場合、企業側に不利に判断されることが多くなります。
【2024年4月改正・重要】労働基準法施行規則の改正により、2024年4月1日以降に締結・更新される労働契約では、雇用形態にかかわらず「解雇の事由」を労働条件通知書または雇用契約書に明示することが義務付けられました。以前の様式や古い雇用契約書を使い続けている場合は、速やかに見直しが必要です。・解雇理由の明確化
「なんとなく問題がある」では不十分です。具体的な事実・証拠を整理し、説明できる状態にしておく必要があります。
・手続きの重要性
いきなり解雇するのではなく、注意・指導・改善機会を与えるプロセスが重要です。この過程を記録として残しておくことが、後のトラブル防止につながります。
■不当解雇になるケース
中小企業でよく見られる不当解雇の例としては以下があります。
・注意や指導をせずに即解雇
・感情的な判断による解雇
・明確な証拠がないままの処分
・就業規則にない理由での解雇
裁判では、企業側に厳しい判断が下される傾向があり、解雇無効+賃金支払いを命じられるケースも少なくありません。
■解雇の実務対応の流れ
適正な解雇を行うためには、以下のステップが重要です。
- 問題の把握
- 注意・指導の実施
- 改善機会の付与
- 記録の蓄積
- 解雇判断
- 書面による通知
このプロセスを丁寧に踏むことで、リスクを大幅に低減できます。
■社労士の見解
中小企業において解雇は「最後の手段」であるべきです。実務上、多くのトラブルは「手続き不足」と「証拠不足」に起因しています。
特に重要なのは、「改善の機会を与えたか」「その記録が残っているか」という点です。これが不十分な場合、たとえ問題のある従業員であっても解雇が無効とされる可能性があります。
従業員と面談し、今後の業務の遂行方法や勤務態度について話し合いをした際にはしっかりとその記録を残しておくことが重要です。
また、経営者の感覚と法律の判断基準は大きく異なるため、判断に迷った場合は専門家に相談することがリスク管理の観点から有効です。
■今後の動向:解雇無効時の金銭解決制度
現在、解雇が無効と判断された場合に、企業が「労働契約解消金」を支払って雇用関係を終了させる「金銭解決制度」の導入が労働政策審議会で議論されています。解雇が無効とされても復職を望まない労使双方の実態を踏まえ、紛争解決の選択肢を増やすことが目的です。2025年12月時点では議論中の段階であり、法制化の時期は未定ですが、今後の法改正の動向として注目しておく必要があります。
■まとめ
解雇とは、企業が一方的に雇用契約を終了させる行為であり、日本の法律では厳しく制限されています。
特に中小企業では、以下のポイントを押さえることが重要です。
・解雇には合理的な理由と相当性が必要
・就業規則の整備が不可欠
・指導・改善のプロセスを踏むこと
・記録を残すことがトラブル防止につながる
安易な解雇は企業に大きなリスクをもたらします。適切な手順と法的理解をもとに、慎重な対応を行うことが重要です。
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